筆者:金子倫子
長い一週間だった。先の見えない不安と闘ってきた人々にとって、やっと光が見えた選挙結果だったかもしれない。光は、ひびの入った厚いガラスの天井からも漏れ、多くの女性の頭上に降り始めたのではないか。
カマラ・ハリス米国副大統領の誕生は、アメリカの女性だけではない、世界中の女性にとっての大きな前進になるだろう。4年前、多くの女性がそのガラスの天井のあまりの厚さに打ちひしがれた。4年後、こんな形で希望が戻ってくるとは誰が予想しただろうか。そして、この結果はジョー・バイデン次期大統領がカマラを共に戦う相手に選んだからこそ実現した。
民主党の大統領候補選抜でのディベートで2人のやり取りを見た人は思っただろう、なぜ次期大統領はカマラを選んだのかと。苦い戦いをした2人が共に戦う事になったのは、カマラがカリフォルニア州検事総長だった時、デラウェア州の検事総長だったバイデン次期大統領の亡くなった長男ボー・バイデン氏のおかげであろう。選抜ディベートで大打撃を与えられたことにこだわらず、最も相応しい人を候補に選んだ次期大統領の器の大きさも、多くの米国民は認めたのではないか。
正式な勝利宣言スピーチで、ハリス次期副大統領は白の装いだった。色の専門家からすると、クリーム色だとかアイボリーだとかあるのだろうが、私は専門ではないので白の装いとする。白のボウブラウスは厚手のシルクだろうか。光沢が美しい。その上に左胸のラペル部にアメリカ国旗のピンを付けた、白のパンツスーツ。このスーツはどうやら、キャロリナ・ヘレナのデザインらしい。この全身白の装いは、サフラジェットという20世紀初頭の女性の参政権を求める活動家らが全身白の装いが多かったということから来ているようだ。2019年トランプ大統領の一般教書演説時、民主党のコングレスウーマン達が全員白の装いで参加した。2016年、ヒラリー・クリントンが民主党の大統領候補に正式に選ばれた時も白のパンツスーツであった。全身白の装いは、女性が参政権のために闘ってきた装いなのだ。
サフラジェットという言葉は、時にイギリスでは女性政治社会連合の様な好戦的な人をさすことが多いとのこと。この連合は1908年から、純粋さを表す白、尊厳を表す紫、希望の緑をテーマカラーとし、ピンなどのグッズなどを出していたようだ。連合はサフララジェットのリーダーである女性二人に、特注の宝飾品を贈ったとされる。紫はアメジスト、白は真珠、緑はペリドットなど(エメラルドは高価過ぎたのかも知れない)を使い、宝飾品を作ったとされる。参政権獲得の闘いの白が、純粋さを意味する白というのが少し意外でもある。花嫁のウェディングドレスは、純潔、そして「あなた色に染まる」という意味合いも含めて白になったと言われる。女性の参政権も白を純粋さを表す色とするところが興味深い。
日本でも白装束というものがある。白という色は確かに何色にも染まるという意味では、最も主張しない様にも思う。しかし実際は、全身白と言う装いは全身黒にも引けを取らない迫力がある。
ハリス次期副大統領はこの一年ほど、重要なイベントでは真ん中にマベパールと思われる大きなパール(通常半円)を金が縁取った大ぶりのイヤリングを身に着けている。今回はボウブラウスで首元が隠れていたので、耳元の華やかな白と金の組み合わせが特に際立った。
今回の選挙は、多くの女性に、投票が出来ることの素晴らしさを再認識させてくれたのではないか。100年以上前のサフラジェットの女性達は、同じ白の、全身輝くような装いでステージに立ち演説をしたハリス次期副大統領をどう見るのだろう。彼女たちが100年以上前に見た夢。私達の世代はこれを機に、もっと真摯にその夢を次世代に繋がなくては。