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第61回 商いはこれさえあれば

2020年が始まった。昨年は、あなたにとってどんな年だっただろうか。そして今年、あなたはどんな年にしようとしているだろうか。年初にあたって、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のたこ焼き屋店主から昨年末に受けた報告を紹介したい。

報告書のタイトルは「二度あることは、三度ある」。近年日本で多発している、豪雨による災害についてのことだ。

報告者の店は、日本郊外の道路沿いにしばしば見かける独立店舗のたこ焼きレストラン。2018年の豪雨災害で、店舗が浸水してしまった。そのとき、多くの顧客や関係者が駆けつけて、浸水後の後片付けや清掃作業など様々な支援をしてくれ、早期の営業再開にこぎつけることができた。その嬉しさ、安心感から、当時の報告書には「ウエルカム・ピンチ! ウエルカム災難!」と前向きな言葉すらあった。しかし、今回の報告書で彼は言う。「当時、そんな前向きなことが書けたのも、心の中のどこかで、こんなに大きな災害は一生に一度きりで、もう二度と見舞われることはないだろう、みたいな思い込みがありました」

2019年7月、二度目があった。報告書の写真を見ると、店の半分ほどが水に浸かり、店内には冷蔵庫が浮いている様子が見える。前年よりも被害は深刻だった。しかし、顧客らは今回も立ち上がった。前年も手伝ってくれた人々は清掃の要領も分かっており、5日間で営業再開にこぎつけた。冷蔵庫に関しては、設備業をしている顧客がいち早く在庫を確保してくれるなどもした。

報告者は、お礼を兼ねたバーベキュー・パーティーを企画。その準備をしていた8月、なんと三度目があった。たった2カ月間に2回の浸水である。このときは、さすがに心が折れそうになったと店主は言う。しかし、三度目もまた、顧客らは立ち上がった。今度は、なんと3日間で営業再開。立て続けの災害で出費も大きくなったことから、今回は募金活動も行ったが、こちらも予想以上の集まりだった。

商いの持続を支えるもの――それは顧客だ。あなたの店や会社には、あなたに何があろうと支え、絶対につぶさないと動く顧客がどれだけいるだろうか? これからの社会、さらに変化は激しく速い。商いのあらゆるところにITが流れ込み、考えるべきこと、打つべき手も多い。しかし、だからこそ常に振り返ってほしい。商いを支えるのは顧客だ。彼らへの提供価値、長く良い関係を続けるための活動は今どうなっているか、次にどうしていくかを。「何があっても、必ず私たちは復活できる」と、報告者のたこ焼き店主は言う。それこそがこのような時代における、商いの真の強さではないだろうか。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。