あるワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)の自動車販売整備会社の部長からご報告をいただいた。内容は、ワクワク系マーケティング実践のことではなく、ワクワク系をいかに社内に浸透させるかの取り組みについてだ。
ここ最近で多く寄せられるのは、いかに社内にワクワク系を浸透させたかという報告。言い換えれば、いかに人材を育成し、組織を強くしていくかの取り組みだ。
なぜそういう報告が増えてきたのだろう? 私自身が、会員に向けて社内教育の重要性を説いていることは一つにある。しかしそれ以上に、これからの企業の存続は「人」にかかっていること。そして、その人材育成には従来型の研修では難しいという会員企業らの実感がある。
今回の報告内容は、いたってシンプル。筆者が毎月送る会報誌を、社員みんなで読み合わせる機会を設け、自由に意見を言い合うことを始め、続けていったというものだ。会報誌には、様々な企業の様々な実践事例が私の解説と共に掲載されている。会報誌を社内共有したことで、「書ききれないほど社員の気持ちが変わり」、有意義な学びの場となっているとの報告だった。
社員らが最初から乗り気で会報誌を読んでいたかと言えばそうではなく、当初は「めんどくさい」「やりたくない」の声があがり、身があまり入らなかったそうだ。そこで同社社長は、「好きな食事をして、美味しい物を食べてから楽しい勉強をしよう」と美味しいもので動機づけた。社員らも「美味しいものが食べられるなら」と、なんとかスタートした。とはいえ、当初は意見も出なかった。しかし、続けていくとだんだんと意見がではじめて、そうなると後はどんどん活発な意見があがり、今では先述のように活況を呈しているのである。報告書には、どんな形式やルールで行っているかなどが詳細に書かれており、それらも示唆に富んでいる。
今回の報告から学ぶべき重要なことは2つある。ひとつは、彼らがこの学びの場を自分の意見を言い合う場としていることだ。これからの人材育成に欠かせないのは、こういう「創発」の場である。またもうひとつ重要なことは、ここで彼らが創発の材料としているものだ。それは、会報誌の「事例」だ。事例から学ぶことの重要性を、私は学問的に把握できているが、一般的に考えられている重要度の百倍くらい重要だ。その理由はここでは書ききれないが、これからの学びは単に知識と情報を入れるだけでは足りない。事例をもとにした創発的学び。それが今日の社会の中で、人材を育て、組織を強くするための欠くべからざる糧のひとつなのである。