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招客招福の法則 第24回

第24回「楽しく学びのあるペナルティ」

このコラムでは主に、売上が大きく伸びる、お客さんと素晴らしい絆が築かれるなどの実例を、そこからの学びと共に紹介している。それら成果のカギとなるものが、人の心と行動を軸にした考え方・やり方だが、それを学んでいる私の身近な会社は、実はお客さん以外にも活用している。その対象は従業員たちである。今回はそんな一例をご紹介しよう。

あるチェーン店のマネジャーから大変ユニークなご報告をいただいた。内容はノルマ未達の場合などの、社員のペナルティについてだ。

私も以前チェーン店で働いていたのでわかるが、ノルマを達成するのは至上命題であり、未達の場合はしっかりおとがめがある。今回のご報告は、このチェーンが行っているあるサービスへの入会率に対してのもので、特にノルマではないのだが、入会率が低い店は、やはり高い店に学べと言われたり、レポートを提出させられていたそうだ。

そこで彼がマネジャーとなり、多くの店舗を監督する立場となって、考えた。かんばしくない成績の場合、責めるのではなく、何か面白く、それでいて勉強になるものを仕掛けてみたい。そこで思いついたのが、集計数字があまりにも低い店は、〝特典〟として読書感想文を書いてもらい、他の人に披露するというものだ。1カ月目は店長が代表として、もし2カ月連続で低いままの場合は、その店のスタッフ全員が書き、披露する。本の内容は、マンガ以外なら小説でもビジネス書でもなんでもかまわないとし、感想文もレポート用紙1枚以上とした。

結果、興味深いことが起こった。これをきっかけに読書習慣がついたり、同じ読書体験を通じてスタッフ同士のきずなが高まるなどのことがあった。なかには、家で感想文を書いているところを中学生の娘に見られ、それがきっかけで娘と大いに盛り上がった40代男性もいたという。マネジャー自身、感想文で紹介された本を自分も読むことにしているが、そのことで彼らとの共感が深まった。何より、単なるペナルティだとやらされ感があったり、罰としての屈辱感が先行するが、内容をこうして変化させることで、楽しめたり、学びになったり、いい影響を与え合えたりすると、彼は語る。

ペナルティというものは、そもそも奮起を促し取り組み意識を高めることが目的だ。その際、屈辱感が先行するか、楽しさや学びがあるか。どちらが結果を生むか。ちなみに、ハーバード大学の最近の研究でも、幸福感の高い社員の生産性は31%上がり、売上は37%上がり、創造性は3倍高いとの結果が得られている。これが正解といった単純なやり方はないだろうが、今回の例のような取り組みもまた、人の心と行動を軸に考えることで得られる大きな成果につながるのである。

(小阪 裕司)

筆者プロフィール山口大学人文学部卒業(美学専攻)後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。人の「感性」と「行動」を」軸にした独自のビジネスマネジメント理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。

近年は研究にも注力し、工学院大学大学院博士後期課程修了。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は、多方面から高い評価を得ている。

「日経МJ」(Nikkei Marketing Journal・日本経済新聞社発行)での460回を超える人気コラム「招客招福の法則」をはじめ、連載・執筆多数。著書は、新書・文庫化・海外出版含め39冊。

九州大学客員教授、静岡大学客員教授、中部大学客員教授、日本感性工学会理事。詳細は www.kosakayuji.com

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。