「お客さんを巻き込んで共に遊ぶ2」
前回、機器のメンテナンスや小型車両の講習会などのイベントをスタンプラリー形式にして、お客さんと共に遊ぶ試みをご紹介した。そこに来る方々はほとんどいわゆる〝おじさん〟だが、はたしてこの企画はうけるのか?そして、こういった活動が商売にどんな成果をもたらすのか?
まず結果だが、意外にも初年度から5会場達成者が3名。難しいと思っていた8会場達成者も3名出た。そこで彼らには、各営業所で感謝状とプレゼントの授与式を行い、それをフェイスブックにも掲載、会員全員にさらなる告知を行うと、次の年また次の年と挑戦者も達成者も増え、現在も、今年こそは!と意気込んでいるお客さんが多数とのこと。
ちなみに、8会場を達成するともらえる〝何か〟のなかで大人気なのは、達成者の似顔絵入りの専用名札。この先ずっと同社イベントに入場できる顔パスチケットだ。ある意味これはスタンプラリーのゴールだが、達成者はその後もさらに足しげく各会場のイベントに通う。また、5会場達成者のオリジナルキャップは、入手後それをかぶって来場するようになる方が多数。一昨年からイベント来場記念品にピンバッヂを始めると、皆このキャップにバッヂを付けるようにもなった。
元々今回の企画は、同社イベントや講習会に繰り返し来てくれるお客さんへのお礼であり、よりその数を増やし接触回数も増やそうとの狙いだったが、それが果たされると同時に、今までとは異なった売上増にもつながっていると同社は語る。具体的には次のようなものだ。
ある年、スタンプあと1つで5会場達成だったお客さんにスタッフが「あとひとつで帽子がもらえるし、次の展示会場は車で1時間くらいで来られるからどうですか?」と言ったところ、彼は翌週その会場に現れた。そして、受付に来るやいなや「あとひとつと言うから、頑張って来たぞ!」と猛アピール。そんな彼と展示会場を歩いていたところ、突然「この重機幾らだ?」とバックホーについてお尋ね。数百万もする買い物だがとんとん拍子に話は進み、その場でお買い上げ。「おい~、帽子もらいに来たのに、バックホー買っちまったじゃね~か」と、帰り際本人は上機嫌だったという。
今回の活動を通じ、お客さんとの関係性がどんどん深まっている。このバックホーのようなケースは、それゆえ、急に思い立った時にもすぐ行動してもらえるようになったのだと同社は分析する。
かくしてこの企画は大ヒットしたのだが、実はこれは不思議なことではない。お客さんを巻き込んで共に遊ぶ――これが今日商売において大切な取り組みなのは、この例のように、誰よりもお客さんが、ひそかにそれを望んでいるからなのだ。そして、こうした取り組みがもたらすものは、「楽しさ」だけではないのである。
(小阪裕司)
筆者プロフィール : 山口大学人文学部卒業(美学専攻)後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。人の「感性」と「行動」を」軸にした独自のビジネスマネジメント理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。
近年は研究にも注力し、工学院大学大学院博士後期課程修了。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は、多方面から高い評価を得ている。
「日経МJ」(NikkeiMarketingJournal・日本経済新聞社発行)での460回を超える人気コラム「招客招福の法則」をはじめ、連載・執筆多数。著書は、新書・文庫化・海外出版含め39冊。
九州大学客員教授、静岡大学客員教授、中部大学客員教授、日本感性工学会理事。詳細は www.kosakayuji.com。