お客さんを巻き込んで共に遊ぶ――これは今日商売において大切な取り組みだと思うが、いかがだろうか。これに関して、ある会社から画期的な取り組みのご報告をいただいた。その会社は、県内の数店舗で土工農具などを販売する一方で、建設機器リースや浄化槽の設計施工その他の事業を幅広く営んでいる。その関連で多彩なイベントや講習会を開催していて、たとえば「バックホー上達スクール」「溶接教室」「チェーンソーメンテナンス講習会」や小型車両の資格講習会などがある。そんなイベントや講習会メニューが充実してきたある年、これだけ数多くの催しをお客さんに知ってもらうためにはどうしたらいいかと考え、一覧できるよう年間カレンダーを制作し、会員向けにDMで送るようにした。
それを2年間続けていると、驚いたことにそれらのイベントへ、最寄り以外の会場へも足を運んでくれるお客さんが増えていることに気づいた。年間カレンダーにしたことで先々の予定が分かり、このような行動が増えたのだと思われたが、同社は県内に広く営業所を展開しているため、最も遠い営業所間は車で4時間くらいかかる。にもかかわらず、「最寄りの営業所の日程は都合が悪かったから、こっちへ来たよ」「こっち方面に家族で遊びに来たので、ついでに」などと行き来するのだ。さらにはそんな方々のなかに、このお客さんは自分たち
と話をしたくて、関係性を築きたくて何回も足を運んでくれていると明らかに思える方が何人もいた。そんな方々に何かお礼ができるようなことはないだろうか、そう考えた彼らは、イベントや講習会を対象にスタンプラリーを行うことを思いついた。各会場の対象イベントを転々としていただき、多くの会場へ足を運んでくれた方に特別なものをプレゼントするのだ。それにより、足しげく通うお客さんへのお礼もできるし、そういうお客さんの数をより増やし、接触回数も増やせると考えた。
具体的には、約30 のイベントや講習会を対象とし、会場へ来て受付でスタンプをもらうという分か
りやすいものにした。会場に来てさえくれればスタンプを押すことにしたのは、「何か買わなければ」というお客さんのプレッシャーを無くすためだ。そして、5 会場以上参加した方には同社特製オリジナルキャップを、8 会場達成でさらに特別な「何か」をプレゼントすると告知した。とはいえ、これを達成するには最寄りの会場だけではできず、必然的に遠くの会場にも足を運ぶこととなる。
こういった企画自体はよくあるものだ。ただ今回の場合、家族でポケモンのスタンプを集めたりするわけでなく、対象は機器のメンテナンスや小型車両の講習会だ。しかもそこに来る方々は、ほとんど
いわゆる「おじさん」である。はたしてこの企画はうけるのだろうか? また、こういった活動が商売にどんな成果をもたらすだろうか? この続きは次回に。
(小阪 裕司)
筆者プロフィール: 山口大学人文学部卒業(美学専攻)後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。人の「感性」と「行動」を」軸にした独自のビジネスマネジメント理論を研究・開発し、2000 年からは、その実践企業の会主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。
近年は研究にも注力し、工学院大学大学院博士後期課程修了。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は、多方面から高い評価を得ている。
「日経М J 」(Nikkei Marketing Journal・日本経済新聞社発行)での460回を超える人気コラム「招客招福の法則」をはじめ、連載・執筆多数。著書は、新書・文庫化・海外出版含め39 冊。
九州大学客員教授、静岡大学客員教授、中部大学客員教授、日本感性工学会理事。詳細はwww.kosakayuji. com。