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アジアにおける日本の役割を議論 有識者集い、日米関係強化を訴える

ワ州日米協会主催による講演会「Update on Japan’s Role in Asia」が3月31 日、シアトルダウンタウンのヒルトンホテルで開催された。日々変化するアジアの国際状況の中で日本が果たす役割というテーマで、経済・地勢・外交政策の有識者による講演とパネルディスカッションが行われた。

みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は安倍首相の経済政策「アベノミクス」の概要と動向を説明。日本経済の行方について「1・5%程度の経済成長が2020年まで続く予定」と分析したが、日銀が国債を買い続ける状況には懸念を示し、「アベノミクスにはあまり時間が残されていない」と解説した。

早稲田大学法学部の河野真理子教授は、中国と東アジア諸国間で対立の深まる南シナ海での状況について国際法の観点から解説した上で、「問題解決には国家間の協力が重要。アジア諸国の地域協力メカニズムが、協調関係を構築するために必要」と国家間協調の必要性を説いた。

基調講演をする田中明彦氏。

東京大学教授で元国際協力機構(JICA) 理事長の田中明彦氏は基調講演で、冷戦後の日本の国際関係について安全保障、経済、歴史問題の観点から解説。日米同盟、自由貿易が日本の安全保障と経済の鍵と語った。

パネルディスカッションではセンター・フォー・アメリカン・プログレスのグレン・フクシマ氏が司会を務め、神戸大学の蓑原俊洋教授、東京財団研究員小原凡司氏、ヴァンダービルド大学のジェームズ・アワー氏が、アジアの安全保障と日本の役割という

テーマについて議論した。中国の台頭や不安定な北朝鮮情勢などを踏まえ、集団的自衛権行使など日米同盟強化の重要性が語られたほか、今後の日本外交に大きな影響を及ぼす米大統領選挙についても議論が行われた。

「日本の多様な意見英語で」――田中氏

31 日午後に開かれた講演会は英語で進められ、ワ州日米協会関係者に加え、日米関係に関わる官民関係者約100人が出席した。講演後、田中明彦氏は次のように答えている。

――近年英語で日本を発信する機会が増えていると実感しています。

田中:「日本の中で、できる限り日本の事を世界に知ってもらうことが重要だという認識が高まっていると思います。

私は以前から、国際政治は『ワードポリティックス』だと主張していました。言葉でどれだけ伝えられるかということが非常に大事で、そうなると日本語だけでは限界があります。その面で日本の中で民間も政府も発信に力を入れていることだと思います。

気を付けるべきことは、日本は自由で民主主義な国だということです。英語にする内容にしても、政府の広報のみになってしまうと逆効果となる部分もあります。その面では、できる限り日本の中の多様な意見が自由な意見として、日本語以外の言葉で世界に伝えることが大事だと思っています。

また日本語以外、特に英語で直接発表できる人、パネルディスカッションをできる人が増えてきていることもあります。これからますますそういった機会は増えてくると思います」

―― ワードポリティックスとありましたが、アジア、特に日中関係においてはリーダー間の対話が重要と聞いております。

「そうだと思います。とりわけ日中関係においては、中国の指導者と日本の指導者ができる限りコミュニケーションを取らないとうまくいきません。中国の今の政治体制は、指導者がOKと言わなければ動くことができません。日中関係を良くするためには日本と中国の指導者が会って合意をするということが大事になります」

――日米関係は大統領選挙を経て新しいステージに向かいます。

「大統領選で米国は変わりますので、新しい指導者との関係を建設的な形で打ち立てていかなければなりません。安倍首相はこれまでの日本の指導者の中で、海外の指導者との関係を作るのが上手な人だと思いますので、新しい大統領とも良い関係ができると思います。

安倍政権は今、日本として外交上の弱点があまりありません。中国や韓国との関係は(外交上は)平静になりました。米国との関係を重視するということも決めておりますので、今後新しい大統領との関係もうまくできると思います」

アベノミクスの良い側面も伝える――唐鎌氏

唐鎌大輔氏はアベノミクスが海外において「さまざまな評価がある中で、良い側面を伝えることも大切」と語る。講演後には財政面に関する質問が多い中、企業収益が過去最高を記録するなど実績を残していることを指摘。いかに一般市民の生活に還元できるかが今後の鍵と説明した。

日本経済で今後期待できる分野として、年間訪日数2千万人に達する観光業をあげる。日本においては自動車関連産業が経済の大きな部分を占めている事実を踏まえ、「先進国であれば、観光をはじめサービス業なども見る必要があります」と語る。

新卒採用という年代ごとに雇用状況に差が出る「誕生日差別」など、長年続く課題にも触れ、安倍政権が雇用規制緩和に取り組む点を評価。35 歳以上の女性、65 歳以上の男性と今までと違った年齢層での雇用が伸びていると指摘している。

(記事・写真 = 佐々木 志峰、遠藤 美波)

 

佐々木志峰
オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。