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第42回 この置き換えができるかどうかで

前々回のこのコラムで、ある牛乳販売店が、担当者の引き継ぎにワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)的な活動を行い、成果をあげている話をした。それまで単に業務的な引継ぎのお知らせを牛乳ボックスに入れるだけだったものを、後任者の自己紹介レターなどを準備し、送るまたは手渡すなどに変えた、ワクワク系的な改善だ。

先日、ある会社で会議を行っていたところ、このコラムを見て、この実践を早速自社に置き換え行ったところ、成果が出ているというご報告をいただいた。この会社はいわゆるBtоBの製造業で、牛乳販売店とは大きく異なる。「お客さん」は法人客である。事業規模も大きく異なり年間売上は数百億、多くの取引先を持つが、同社では毎年この時期人事異動があり、担当者が変わる。そこでこのコラムを見て、ピンときての実践だった。

具体的に行ったことも詳細にうかがったが、かの牛乳販売店と本質的には同じだ。同社が今回実施した引き継ぎレターには、前任者と後任者の自己紹介があり、前任者による後任者の他己紹介も添えられている。これをお客さんに手渡す活動をまずは始めたところ、どの方も100%きちんと目を通し、様々な好反応があった。例をあげると、前任者の新たな赴任先について自分が知っていることを教えてくれる、後任者に対してお客さんが共通点を探してくれ、その話題で盛り上がる、など。大いに手ごたえを感じ、今後もこのような活動に注力し、継続していくとのことだった。

この実践からの学びにはもちろん、こういうワクワク系的な引継ぎがどんな業種でも効を奏す、というものがある。しかしそれ以上にお伝えしたいことは、売上数百億のBtоBの製造業者が、小さな牛乳販売店の実践事例を置き換えたことにある。こういうことができる人、会社は、意外と少ないからである。

この仕事を長くやってきて思うことは、他社・他者の実践を、自社・自分に置き換えることが難しい方が多いことだ。ゆえに多くの方は、同業の事例、自分と近い境遇の事例だけを探してしまうが、そういうやり方では学びは遅く、狭いものとなる。また、申し上げておきたいことは、どこかで誰かが行って出した結果は、ほぼ確実に自分でも再現できるという事実だ。その再現のポイントは「やったこと」ではなく、なぜその結果が出るのかの「メカニズム」の方にある。そしてもうひとつ不可欠なポイントは、「うちでは無理」と思わず、実際に取り組むことだ。それが繰り返されることでメカニズムが読めるようになり、いずれ文字通り、世の中のすべての事象は学びの宝庫となるのである。

小阪裕司■山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。