あなたがあるお店のオーナーで、仕事のパートナーやスタッフが、お客さんに簡単に値引きをして困っているとしよう。この問題を、あなたならどう解決するだろうか?この問いに対する、実に興味深い実践のご報告をいただいた。ご主人と共にお店を経営する奥様からのものだ。
ご主人は元々優秀な営業マン。話相手がとても上手で、お客さんの自慢話から泣き言まで「それはすごいね」「そうだね、そうだね」と聞いてあげ、自分にはとてもできないと彼女も思う。しかし、このご主人には困った癖があった。それは、簡単に値引きをしてしまうことだった。何度言ってもこの癖は直らず、お客さんにも当たり前になってしまい、ご主人が不在の際は、「ご主人いないの?」「この前は、ご主人が値引きしてくれたのに」と言われるようになってしまっていた。
そこで彼女はこの問題を、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)の実践仲間に相談してみた。すると自分には思いもつかないこんな意見が返って来た。まず、お客さんからは正規の値段でいただき、レジに打ち入金する。次に、値引き額分をご主人の財布からお客さんにお渡しする、というものだ。つまり、その「値引き」は店としてではなく、ご主人個人の負担という体にするのだ。そのことで、ご主人には値引きしていることの本質を知ってもらう。もしかしたらお客さんの同情も引けるかも…との考えだった。
驚くべきアイデアだったが、やってみようとご主人に話し、月2~3万円を値引き範囲とし、別の財布に入れそこから出すと決めた。また、この新たな試みのお客さんへの告知として、毎月お客さんにお送りしているニュースレターには、ちょっと冗談めかしてこう書いた。「(自分の不在の際)鬼の留守に値引きはご遠慮くださいよ。値引き額は主人のお小遣いから店のレジに入れてもらってますんで、可哀想なんでね」。
するとその月に入り、ご主人の値引きはぱったりなくなった。これは主人の自覚が…と彼女は思ったが、この結果は、それ以上にお客さんの自覚のようだった。なぜなら、いつも必ず値引き要求するあるお客さんまでもが「これからは値引きお願いしないわね。ご主人に悪いからね」と言ってくれたからだ。
このユニークな実践と成果からは、実は多くの示唆が得られる。値引きすることの本質は何か?お客さんは本当に値引きしないと買わないのか?だとしたらそこに良い関係性はあるのか?そして、こういった問題にぶつかったとき、どうすれば画期的な解決策が得られるか。あなたにも考えてもらいたいことである。
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