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第95回 「売り上げを2倍にした、たった一言とは」〜招客招福の法則

「売り上げを2倍にした、たった一言とは」


今回は、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、リユース&リサイクルショップからのご報告を紹介しよう。報告をくださったのは同店の店長。お客さんに発信するたった一言がお客さんを変える好例だ。
商品はベッド。同店では多くの家具を扱っているが、ことベッドに関しては「直接肌に触れる商品はどうも…」とリユース商品は敬遠されることが多く、この抵抗感をどう取り除くかが課題だ。そんな中、接客時に効果があったキラーワードをPOP(店頭販促物)に書いて貼ると、大きな成果が出たとのこと。

売り場に貼ったPOPは4枚。まず1枚目に「中古のベッドに抵抗感があるお客様へ」とあり、2、3枚目は「どんな高級旅館も」「どんな高級ホテルも」。そして4枚目にはこう続く。「お客様がお帰りになったらベッドまでは入れ替えません。シーツを変えれば気持ちよく寝れますよね♪リサイクル品も同じかと」。

これを読んで私も「たしかに!」と思わず声が出た。私自身、中古のベッドにはいささか抵抗があるが、「ベッドまでは入れ替えません」の一言で抵抗感が覆った。まさにお客さんも同じで、このPOPを貼って以降、ベッドの売上は2倍になったのである。

ここでのポイントは「抵抗感をなくす」ことだ。昨年刊行した拙著『「価格上昇」時代のマーケティング』で〝2つのハードル理論〟を論じたが、それは、「人には、実際に『買う』と行動するまでに2つのハードルがある」というものだ。「買いたいか・買いたくないか」が1つ目で、2つ目は「買えるか・買えないか」。この2つを越えてはじめてお客さんは「買う」となり、売り手にとっては、そこではじめて「売上」となる、という理論だが、今回のベッドに関する抵抗感は、この2つ目のハードルに該当する。「いいベッドだな。値段も妥当だな」と、つまり「買いたい」となっても、この抵抗感によって「でも…買えない」となり、「買う」には至らない。ならばそれを取り除くことで売上は伸ばせるのだが、この「2つ目のハードル」は意識しておかないと、意外と気づけない。結果、「ベッドは中古品で売るには難しい商品だね」などという、一見もっともらしい理由で売り手側が納得してしまうものなのである。

その点、今回の例は秀逸だ。たった一言で「たしかに!」となり、抵抗感は霧散し、「買う」となる。この「2つ目のハードル」に気づくこと。そして、たった一言でもそれを覆せること。これらもまた、「売るためのコツ」なのである。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。