Home 日系コミュニティー 年頭挨拶:シアトル高野山 ...

年頭挨拶:シアトル高野山 今中太定

Seattle Koyasan Buddhist Temple
シアトル高野山

518 S Washington St Seattle, WA 98144
(206) 325-8811
https://seattlekoyasan.com/ja/

シアトル高野山 今中太定

新年あけましておめでとうございます。

世界情勢を鑑みるに、年が改まっただけですべてが上手くいくとナイーブに信じることのできない現実が広がっておりますが、そのような今を生きる一つの指針として、弘法大師・空海の言葉を紹介させていただきます。

『法界無縁の一切衆生を観ずることなおし己身のごとし』

意訳しますと、「ありとあらゆる生命が宇宙法界すみずみにまで存在している。その全てをよくよく観察してみると、それぞれが私自身のようである」、ということになります。やあ、あなたのなかの私。そうであるとすると、「私」が「あなた」を傷つける理由は無くなります。日常であれ、戦場であれ。あなたは、私なのですから。

けれども、「あなたは私」という境地に至るまでには、あなたと私の間にそびえる高く切り立った山々、すなわち彼我の差異というものを、幾つも幾つも越えていかなければなりません。面倒くさくなってその営みを放棄した時、我々は誰かを理解不能の他者と断じて傷つけることになるかもしれません。国と国との場合、「ならず者国家」とレッテルを貼って、戦を始めることになるかもしれません。だから面倒くさくても、山を越え、谷を越えて「あなたの中の私」にたどり着くための旅を続けることが大切です。四国遍路の笠に書かれた同行二人とは、このことです。誰かの心の中にある野山を、ひたすら一緒に歩くことが肝要なのです。

空海は、鍵は大悲心にありと言います。大悲心とは大度量。度量とは他人を受け入れることのできる限度。仏教では何でも「大」がつくと、その上限をとっぱらうという意味になります。どこまでも相手の有り様を容れることのできる心。けっして己の心を硬直化させず、相手の心に寄りそい続ける人を、ボサツと呼びます。次の戦争を起こさないためには、この惑星上にもっと多くのボサツが必要です。

今年は辰年。龍がしなやかに体を旋回させながら進むように、心を柔らかく用いながら、相手の中にいるはずの自分と出逢う工夫を続けましょう。我々一人一人、草の根のピースメーカーとして。ボサツとして。

合掌
シアトル高野山 今中太定

 

N.A.P. Staff
北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。