第二次世界大戦におけるユダヤ人強制収容所のアウシュビッツに強制収容されていた少女のスーツケースをめぐる物語『ハンナのかばん』の公演が、シアトルチルドレンズ劇場で行われている。米西海岸で初めての公演となり、物語制作の中心となったホロコースト教育資料センター代表の石岡史子さん、劇作家のエミル・シェラーさん、主人公ハンナさんの兄ジョージ・ブレイディさんが当地を訪れた。
日本の非営利団体「ホロコースト教育資料センター」は1998年に発足。石岡さんは、「米国やカナダとは異なる状況かもしれないですが、差別や偏見というものは日本社会に存在しています。ホロコーストを教材にして子供達が学べるものがあるのではないかと思い活動を始めました」と語る。「子供たちに自分たちの社会で起こっている差別に敏感になってほしい、寛容な社会になってほしい」という思いが強いという。
同教育資料センターに展示品として届いたハンナのスーツケース。持ち主だった13歳の少女が、どんな夢を持っていたのか、どんな家族がいたのか、スーツケースを持ちどこからどこへ送られたのか、というストーリー性を持たせることで、生きていた命を伝えるオブジェクトになればと思い調査を始めたという。
ドイツを含め欧州の国々はホロコーストに関する資料を保管し、歴史を学ぶ姿勢が整っていたという。調査を続けていくうちに、ハンナさんの兄ジョージさんに出会うことができた。
ハンナさんのストーリーに加え、一連の活動を含めて描かれた『ハンナのかばん』が出版され、続けてドキュメンタリー、映画も作成された。日本を含め、カナダ、米国でも舞台化。シアトル公演は、カナダで同作品を観劇したビラーファミリー財団のシェリー・ビラーさんの約10年にわたる尽力で実現した。
石岡さんは、ワシントン大学同窓会からもビラーさんらの推薦を受けて、特別功労賞を受賞している。今回の公演にあたり、関係者と地元小学校を訪問し啓蒙活動を行っている。
ハンナさんの兄ブレイディさんは「妹ハンナの物語を通じて、世界中の子供たちが、家族と一緒にいられることがどれほど素晴らしいか、考えるきっかけになってくれれば」と語る。脚本を手掛けたシェラーさんも、「ホロコーストの悲惨さだけではなく、その中にあったハンナという少女の希望も描かれています。ホロコーストのような差別や暴力は決して歴史の中だけの話ではなく、今もなお続いているものだと思うので、身の回りのことを考えるきっかけになれば」と続けた。
「ホロコーストに限らず、歴史の中で罪もなく奪われてしまった人々の命に思いを馳せる、そういう想像力が平和を作るのではないかと思っています。本作品が子供たちの想像力を育てる手助けになれば」と石岡さんは願う。
『ハンナのかばん』は2月7日まで公演中。詳しくはwww.sct.org まで。
(岩崎 史香)