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「じゃぱんレールパス」 東北、北陸の旅一週間 5

第五日目

日の出を窓から眺めようと、翌朝は早めに起きた。あいにく雲がかかっていたが、それでも陽の方向に向って三拝する。今日も無事に旅が続けられますように。そうしたら、雲がきれて爽快な朝になった。さっそく海沿いを歩いて食後の散歩。ごく小さな字で「大境洞窟住居跡」と地図に記された場所まで、宿の前を走る国道160号線沿いに歩く。北へ進めば石川県境だが、道は海すれすれでまだ車はほとんど走っていない。数分歩くと立派な寺を見つけた。海辺には漁師の小船がいくつも繋いである。

この湾は深くても鰤(ぶり)などの大きな魚は捕れない、と宿の主人は言う。「富山の冬は鰤」と言っても値段は高い、大きければ一匹10 万円もするとつけ加えた。「産地へ行けば新鮮な魚がこんなに安い」はテレビ番組に惑わされたカン違い。うすうす気がついてはいたが、この錯覚はどこから来るのだろう。

「洞窟住居跡」は海岸沿いで、観光案内にない面白い場所だ。縄文時代にこのあたりに人が住んでいたことの証。保存が良いことに感激する。もうひとつ氷見で見逃すべきではないのが「魚魚(とど) 座」。漁業交流館である。「漁業文化の継承と世界への発信」を謳う氷見の漁師たちが集まる場所で、70 ㍍もある越中式定置網がある。この網は小さい魚は逃げることができるように作られており、生態系に配慮してある。「3割捕れれば良しとする」昔の人の考えに基づいている。時間がなく写真で見るだけなのが残念。木造和船もあることだし、足を運ぶべきだった。

疲れていて街中を歩く気力が出ない。高岡駅へ戻った時点で万葉線という小さな路面電車があることを発見し、それに乗ってみようと予定を変更。このとっさの変更が「おもしろい場所」の発見につながった。こういう柔軟性が旅を面白くするのだ。

氷見線とほぼ平行して走っている万葉線は、高岡駅を出ると昨日の宿とは反対方向へと走り、海辺まで行く。終点の「越の潟」まで40 分ほど、がら空きの電車はゆっくり走ったが、沿線にはかつては加賀藩の米蔵があり、明治時代になってからも米商人の町として栄えた地区がある。千本格子の通りがあったりするから、時間があれば途中下車すべきところ。しかし、わたしはその先にある「日本のベニス」を目指す。新しく富山観光のひとつに加えられたとかで、まだ広く知られていない。

「びゆう」(日本全国の駅に置いてある情報パンフレット) に「日本のベニス内川めぐり」という項目があった。誇大広告であることは明らかだが、好奇心があった。それと、そのあたりが「白えび」( 甘エビとは違う) 漁場らしい。透き通ったピンク色の小えびを「富山の宝石」と呼ぶのは少し大げさだが、写真で見るその姿はじつに優美である。昨夜の宿で食べている。実においしかった。それがこの沿線の新湊、つまり「日本のベニス」で食べられる。心は食体験へと急いだ。

新湊の「キトキト市場」へ行って白えびを見、それを食べる時間はない。そこで、試食するのは「白えびバーガー」。雨粒も落ちてきたことだし、みやげ物屋の二階のカフェに入る。近くの住民が、カレーライスとコーヒーで「本日のランチ」(500円)を食べている。わたしは「白えびサンド」(300円)を注文。白えびを殻ごと揚げてマヨネーズや野菜を一緒にはさんであるのだが、これがまことにおいしい。日本人の(あるいはこの土地の人の)天才的な食の開発力に感激する。珍しくておいしいものを食べるのは楽しい。また少し歩いてもいい気分になった。

たしかに運河があり橋もある。ベニスのような屋根のついたものもあるが、「日本のベニス」とは少し大げさではないか。運河は「内川」と呼ばれているが、海から入ってくる船の荷上げのために作られたものだ。あたりの風情とその先の街並がなんとなく上等なのは、この地がかつては北前船の通り道であり、裕福な商人が住んだからだろう。町に伝わる豪華な展示神輿もその証拠である。

ベニスとちがい、内川は一本のみ。そこを運行して海へ出る遊覧船が新湊観光に加えられたそうだ。近くにある商船大学が練習船として使う帆船もあり、4 月から10 月までは帆をあげるので、観光客を呼びこめる。「このあいだ吉永小百合さんが来てほめていた」と言うレストランの店員。それを聞きながらわたしは思う。今のところはなかなか良い感じで、適度の古さがあり昔の裕福さも残されている。観光化が進んでそれが台無しにならないことを祈るのみだが、帆船の鐘を「愛のタイムベル」などと宣伝を始めていることからすると怪しい。観光客はぼちぼちとのことだが、今日は天候不順の平日で新湊は静かだった。行けなかったキトキト市場の「キトキト」とは、「とても新しい、新鮮」と言う意味だそうだ。

高岡駅へ戻り、それから金沢へ向かう予定。だが、地図を見て白川郷に足をのばすことも可能に思える。車があれば簡単な距離だが、電車やバスの便はなく観光バスのみ。白川郷はユネスコ世界遺産。山の中とはいえ、ひどく観光化しているだろう。築400 年という合掌造りの農家には魅力を感じるが、農村が無残にも観光化しているのかと思うと、無理して足をのばす気になれない。

(田中 幸子)