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IDタウンホール・ミーティング MHAゾーニング改定 市と近隣コミュニティーで埋まらぬ溝

文:室橋美佐

インターナショナル・ディストリクト(ID)内の行政課題を話し合うシアトル市タウンホール・ミーティングが、7月18日午後5時半から同地区内にある日系二世退役軍人ホールで臨時開催された。本年初頭からエド・マリー市長が議論を進めてきた同地区内へのMHA(Mandatory Housing Affordably)制定が、今月末に市議会投票で採決される。今回のタウンホール・ミーティングは、MHA採決を前にIDコミュニティーの声を市議会議員に聞き入れてもらうために、Inter’Im Community Development Association (Inter’Im CDA)が同ミーティング開催を企画したもの。

MHAは、指定区域内において、不動産開発時に低所得者向け住宅を一定以上の割合で併設することを定めるものだ。一方で、低所得者向け住宅の供給数を満たせば、不動産開発業者は建築物の高層化が許容される。ID地区がMHAに指定されると、歴史保護地区に指定される区画以外は、現在よりも三階ほど高く伸びるビルが建設可能になる。市の都市開発局は、不動産価格が急騰するなかで低所得者向け住宅建設を促進するためにMHA指定区域を広げたい意向。ID地区以外にも、これまでサウス・レイク・ユニオン地区などがMHA指定を受けてきた。しかし、既存住民や商店街などの近隣コミュニティーは、MHA指定区域になることで高層マンション開発が急激に増えて地区内の不動産価格が逆に高騰することを懸念している。

タウンホール・ミーティングには、シアトル市の全市議員7名のうち、都市計画問題担当のロブ・ジョンソン氏を含む5名が出席した。始めにシアトル市都市計画課スタッフが、MHAの意義や指定区域になった場合の建築物高さ制限緩和の詳細内容を説明した。また、ヒング・ヘイ公園拡張や歩道整備への公共投資、治安維持のための特別公安スタッフ派遣など、近年のID地区への手厚い行政サービスを強調した。

市からの説明の後、同ミーティングを企画したInter’Im CDAのスタッフがプレゼンテーションを行った。同団体のトム・イム氏は「MHAは地区が直面している不動産開発による地価高騰という問題への対策になっていない」と述べ、市は「地区内に住む低所得高齢者や何世代にも渡り商店店舗を営んできた家族を保護するために早急の対策をすべき」と意見した。同団体のプレゼンテーションによれば、ID地区には現在3万6千人の居住者が住み、425軒の中小規模商店が店舗をかまえているという。同団体は、IDが中華系、日系、フィリピン系、そしてベトナム系と、マイノリティー移民や難民を受け入れてきた地であったという歴史を振り返り、一方でI5高速道路開通やスポーツ観戦施設建設など常に市の一方的な都市開発行政の犠牲を受けてきた地でもあったと伝えた。

市とInter’Im CDAのプレゼンテーションの後は、「パブリック・コメント」と呼ばれる一般参加者からの各自3分の意見陳述が2時間以上に渡って行われた。ID地区内に住む女性は7月初旬に開設されたホームレス収容施設への懸念を伝え、同施設で「ドラッグやアルコールの飲用が禁止されていないというのはとても不安」であるとし、また「アヘン中毒者も同施設で受け入れると聞いているが、だとすれば近隣住民はとても許容できない」と不満をあらわにした。ID地区内のリトル・サイゴン地区で育ったという女性が、「MHA指定後に開発された低所得者向け住宅に、ここにいる何人の住人が住めることになるのか?」と市議員へ問いかける場面もあった。

北米報知社ゼネラル・マネジャー兼北米報知編集長。上智大学経済学部卒業後、ハイテク関連企業の国際マーケティング職を経て2005年からシアトル在住。2016年にワシントン大学都市計画修士を取得し、2017年から現職。シアトルの都市問題や日系・アジア系アメリカ人コミュニティーの話題を中心に執筆。