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『ノーノー・ボーイ』 川井龍介氏ブックイベント  「普遍的なテーマ、先を見通す力魅かれた」

本紙、ソイソース紙主催の小説『ノーノー・ボーイ』日本語ブックイベントが11日、インターナショナル・ディストリクトの和み茶室で開かれた。日本語の新訳を昨年12月に出版した川井龍介氏(60)を招待、小説への思いや、取材を通して発見した著者の故ジョン・オカダ(岡田)氏のルーツなどを紹介した。
二世を中心とした第二次世界大戦後の社会やアイデンティティーとの葛藤を描き、シアトルを舞台とした同小説は1957年に発行。オカダ氏死去後の70年代に三世を中心に評価が見直され再版された。現在まで15万部を売り上げるロングセラーとなっている。
日本語版の翻訳は1979年にされ、時代の変化で新たな言葉の表現などを取り入れる必要もあり、新訳の出版が決定した。川井氏は長年にわたり、『ノーノー・ボーイ』を中心とした日系人社会を取材。約2年にわたる翻訳作業のほか、ジャーナリストとしての経験を生かし、故オカダ氏の日本側におけるルーツを探し出した。
11日のイベントには同小説に興味を持つ約20人が出席。故オカダ氏のルーツとなる広島県安佐郡可部町の民家、親戚に送られたオカダ家からの写真を紹介する川井氏の話に聞き入った。講演後には本のサイン会が行われ、参加者の多くが新訳『ノーノー・ボーイ』を手にしていた。
小説について川井氏は、「誰が良い、悪いとか言っているものではない。収容所が苦しかったというところで終わるものでもない。日系、中国系、ユダヤ系、(アフリカ系)と、戦争がありそれぞれ色々な意味で傷を負っている」姿を描いていると語る。現代に通じる「普遍的なテーマ、先を見通す(小説の)力に魅かれました」
翻訳に際し、当時の日系社会の様子や二世という存在、登場人物の背景などから、日本語の使い方にも気を使ったと明かす。同小説に詳しいフランク・アベ氏をはじめ、多くの知人から助けを得たことに謝意を寄せた。
ワシントン大学米国民族研究学部のスティーブン・スミダ名誉教授は、様々な感情が入り混じる同小説の世界観について、「それぞれが読んで感じたものがノーノー・ボーイの世界」と説明。新訳をやり遂げた川井氏をねぎらった。
新訳『ノーノー・ボーイ』は紀伊國屋書店で販売されている。

(記事・写真=佐々木 志峰)

北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。