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是枝裕和監督、ワシントン大学で講演

文:深田祐輔
5月18日、『誰も知らない(Nobody Knows)』や『そして父になる(Like Father, Like Son)』で知られる是枝裕和監督が、ワシントン大学のケーン・ホールでワークショップを行った。これは、三菱商事レクチャーシリーズとして、同大学のジャパン・スタディー・プログラムが主催したものだ。
是枝監督のシアトル訪問は、今回が初めてだという。イベントに先立ち行った本誌へのインタビューで、シアトルの印象について、「姉妹都市である神戸に似た洗練された港町だとの印象を持った」と語ってくれた。「戦略的に考えているわけではない」と笑いながらも、「新しい街や映画祭に招待された時はなるべく訪問の話を受けるようにしている」という。その言葉の中に、貪欲に新しいものに触れ続けようとする監督の一端を見ることができた。自身の映画製作スタイルに関して、「大衆性の中に作家性を埋没させる」ことの魅力に気づいて以降、「様々な手法を試すように心がけている」と語った。その意識は、『スタンド・バイ・ミー』や『クレイマー・クレイマー』といった、いわゆるアメリカのメジャー映画が持つ効率的な物語の語り方を一つの指標としているのだという。『海街Diary(Our Little Sister)』では、「直線的な物語からこぼれてしまう要素を取り上げつつ語るという手法を試みた」とのことで、映画監督としての地位を確立した今でも、自らの作品の中で模索を続ける姿勢が垣間見られた。
18日のワークショップでは、ワシントン大学で現代日本文学を教えるダヴィンダー・ボーミック(Davinder Bhowmik)准教授から「なぜ作品に風鈴や自転車のベルが何度も登場するのか」という質問を受け、「音を想起させるものを映像に取り込むことを意識しているが、風鈴に関してはあまり意識せずに使っているので、より深い心理に関わっているのかもしれない」と答えた。それに続く教授からの数々の鋭い質問に、「まるで心理カウンセリングを受けているようだ」と苦笑いし、会場の笑いを誘った。また、学生からの「なぜカメラをあまり動かさないのか」という質問に対しては、「1シーンを撮る正解のカメラ位置というのは1つしか存在しないと考えているので、その構図を崩さないように芝居を捉えるにはどうしてもカメラの動きが少なくなる」と答え、作家としての顔を覗かせた。
 是枝監督は、帰国後には、次回作『三度目の殺人(The Third Murder)』の仕上げに取り掛かるという。次作では、サスペンスというジャンルをいかなる手法で仕上げるのか、公開が待たれる。
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北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。