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コロナ禍でシアトル初のオンライン授業

BCA4年生のオンライン授業の様子

新型コロナの影響で休校が長引く中、注目されている遠隔学習(ディスタンス・ラーニング)。シアトル地域で他校に先駆けて3月4日に全面オンライン授業を開始したのが、ベルビュー・チルドレンズ・アカデミーとウィローズ・プレパトリー・スクール(以下BCA/WPS)です。清水楡華(ゆか)校長とスタッフの笠原美紀さんに、その決断と実行の舞台裏について話を聞きました。

取材・文:室橋美佐 写真提供:BCA/WPS

決断は日本の感染状況への危機感から

プリキンダーガーテン(幼稚園年中)から高校まで約680名の生徒が学ぶBCA/WPSは、清水校長が2000年に創立。先生1人に対し生徒数10~15名の少人数制で、昨年3月には国際バカロレア校に認定され、マイクロソフトのショーケース校にもなっている。昨年6月、ロンドン拠点の教育投資機関であるインターナショナル・スクール・パートナーシップ(ISP)にオーナーシップが移行したあとも清水校長が引き続き代表を務め、ベルビューを代表する私立学校としてますます存在感を高めている。

今回のオンライン移行の実務を率いたのは、同校のデザイン・ディベロップメント&リサーチ(DDR)部門でマネジャーを務める笠原さんだ。清水校長から最初に相談を受けたのは、3月1日の日曜日。全米で初めて新型コロナウイルス感染による死亡がワシントン州内で確認され、インズリー州知事が緊急事態宣言を出した翌日のことだ。笠原さんは早速、3月2日の月曜日からオンライン会議システムのTeamsでテストを開始し、先生方に向けたインストラクションを作成した。IT部門の鈴木彩子(あきこ)さん、数学・化学教師の末吉顕大(けんた)さんらとオンライン授業のプログラムをまとめ、教師陣や他スタッフへのトレーニングを行った。「3月3日の火曜日は学校を休校にして、朝から先生方全員を集め、トレーニングをしました。午後2時頃には、学年やクラス単位で、先生が生徒たちとTeamsを使ったテスト・セッションを実施。3月4日の水曜日から、全学年のオンライン授業をスタートしました」と、笠原さんは当時の敏速な流れを説明する。

その頃のシアトルは、ようやく危機感が広がり始めたものの、イベント中止やビジネス休業の措置が発表されるのはその10日ほど後。学校閉鎖により公立校がオンライン授業を本格的に始めたのは4月に入ってからだ。なぜ、先陣を切ってオンライン移行を決断できたのか?

「2月中旬の沖縄出張をきっかけに、生徒やスタッフの安全確保を意識するようになり、オンライン移行の可能性を考え始めました。日本ではすでに感染が広がっており、ただならないものを感じました」と、清水校長は振り返る。2月29日にシアトルへ戻って自主隔離を開始すると、授業のオンライン移行への決心も固まった。情報が錯そうし、感染数や行政による防止策が日に日に変化する中での決断だった。

ISP本部とも調整する必要があった。最初は疑問視する声も上がっていたという。「数日後には、本部から私への自宅待機指示がありました。私の感染を心配してのことでしたが、それがなければオフィスで指揮を執りたくなっていたと思いますので、今は感謝しています」と、清水校長。先駆けてオンライン移行が進められた背景には、清水校長の強いリーダーシップと、それを可能にした実行部隊の存在があった。

WPSの実物大三面映像を使った視聴覚室からオンラインで行う7年生の数学授業。
迅速にオンライン移行を実現できた理由

同校で働く72名の教師、スタッフ31名には、オンライン移行前から全員、ノートパソコンとクラウド・サービスのOffice 365のアカウントが配られていた。そのため、Teamsを使ったオンライン授業を開始するためのインフラは整っていた。「必要なソフトウェアの機能を一斉にインストールしたり、必要な教材をアップロードしたりということがスムーズにできました」と、笠原さん。セキュリティー面でも、大手専門企業へ管理を委託していて不安材料は限られていた。生徒にも、中高生には全員にノートパソコンとOffice 365アカウントが配られていた。小学生以下でも保護者側でパソコンを準備でき、オンライン授業に支障がない家庭がほとんどで、私立学校ならではの好条件がそろっていた。

多様なバックグラウンドを持つスタッフが集まっていることも大きい。笠原さんは、マイクロソフト社で言語テスト・エンジニアとして14年間働いた経験を持つ。鈴木さんも、かつて同社でプログラム・マネジャーを務めていた。世界的なIT企業が集積するシアトルという土地柄もあり、テクノロジー分野に精通するスタッフがそろっていたことは、迅速なオンライン移行を可能にした要因のひとつと言えるだろう。

清水校長は、組織体系や教材開発の側面からも好要因を説明する。「教師陣は、校長である私から、4校舎のヘッド、学年主任、そして各クラスの先生までの4層の組織になっています。今回の急な判断と決行で、指示やフィードバックをスムーズに行うには適した構造でした」。アメリカの公立校では、クラス運営の多くが先生の裁量に委ねられている。コロナ禍で遠隔学習が各校で始まったものの、教師の技量によるところが大きく、内容と質に大きな差が出ているとの批判がある。BCA/WPSでは国際バカロレア認定に準拠し、校舎ごとに、または学年ごとにグループを作り、教師らが協力して教材開発やクラス運営をする基盤ができていた。つまり、オンライン授業に移行後も、学校全体として品質管理ができる環境にあったということだ。「オンラインのプログラムを組むうえで、先生たちからのフィードバックや、いろいろな角度からの配慮は欠かせませんでした」と、清水校長は語る。

さらなるオンライン環境の改善を目指して

3月4日以降、同校の幼稚園と小学校では午前9時、11時、午後1時の3回の授業が行われている。中高では午前8時半から午後3時半まで全教科の時間割で埋まる。その中には「オフ・スクリーン・タイム」として、パソコンから離れて活動するプログラムも組み込まれている。体育や美術などの専門科目も、当初の録画した動画配信から、現在のライブでのオンライン授業へと移行済みだ。日本語教育の場を提供するBCA土曜学校では、5月から無料のオンライン授業を開始している。

シアトル周辺の公立校は、ライブでオンライン授業を行ったとしても週1回など限定的で、定期的に出される課題を各自で進めるスタイルが主流だ。こうした中で、BCA/WPSの対応は異例とも言える。「最初は、慣れない操作に戸惑う先生も多かったのですが、子どもの前に映るとすぐに先生の顔に切り替わるのは流石です」と、笠原さん。

先生によっては、小さな子どもがいたり、オンライン環境に不慣れだったりする中で授業に臨むこともある。そこで、ネットワーク中断に備えてバックアップ・プランを用意しておくなど、先生方が安心して生徒と向き合えるようなサポートも行っている。Teamsの仕様について、先生方からのフィードバックを開発元のマイクロソフト社へ返し、改善を求めることもあるそうだ。「先生方が授業をしやすい環境にできるように、これからも支援していきたい」と、笠原さんは話す。一方で清水校長は、「オンラインでは技術面以上に、授業内容の充実が大きなチャレンジ」と、教室に集まって行う授業とは異なる取り組みの必要性を感じている。「遠隔学習を続ける生徒が『何のために学ぶのか』を意識し、集中力を維持できるようにすることが重要。クラスの連帯感を生み、学ぶ意欲を育てる工夫が求められます」

コロナ禍で変化を求められている学校教育の現場。日本人女性が率いてアメリカで成功しているBCA/WPSのオンライン授業は、ビジネス面からも見ても興味深い取り組みと言えるだろう。

ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー(プレキンダー、キンダー、小学校)
www.bcacademy.com
14600 NE. 24th St., Bellevue, WA 98007
ウィローズ・プレパトリー・スクール(中学、高等学校)
www.willowsprep.com/
12280 NE Woodinville-Redmond Rd, Redmond, WA 98052
北米報知社ゼネラル・マネジャー兼北米報知編集長。上智大学経済学部卒業後、ハイテク関連企業の国際マーケティング職を経て2005年からシアトル在住。2016年にワシントン大学都市計画修士を取得し、2017年から現職。シアトルの都市問題や日系・アジア系アメリカ人コミュニティーの話題を中心に執筆。