Home コラム 一石 75年の時間

75年の時間

仕事現場でパソコンの画面に目を落とすと、シンシナティ・レッズでプレーする秋山翔吾選手の試合の様子が映像で流れていた。相手はミルウォーキー・ブルワーズ。試合後半の打席には日系のケストン・ヒウラ選手が入り、見事なスイングで本塁打を放ってみせた。昨季は大リーグデビューして19本塁打。今年もブルワーズの主力選手として活躍している。

その数時間後、今度は男子ゴルフで日系のコリン・モリカワ選手がメジャー大会となる全米プロ選手権を制した。試合終盤のスーパーショットでつかんだ栄冠。プロ2年目、メジャー大会は2戦目という快挙だった。

大学時代の実力から将来を期待されていた両選手。ともにカリフォルニア州出身。ヒウラ選手は今月24歳になり、モリカワ選手は23歳。2選手とも競技の中では体格に恵まれていないが、勝負を決めるメンタル面の強さが際立つ。同年代の若き日系スター選手の登場に気持ちも盛り上がる。

彼らが活躍した日、8月9日は長崎への原爆投下から75年が経った。広島ではその3日前。当地で毎年行われてきた慰霊祭「From Hiroshima to Hope」は、新型コロナウイルスの感染拡大のためグリーンレイクで予定されていた現地開催が中止された。主催者によると3千人近い参加者を見込んでいたという。プログラムは他の行事と同じくオンラインで発信され、平和への思いが共有された。

核の時代へと世界が変わって75年。日本が戦争を終えて75年にもなる。

地元原爆慰霊祭の主催者の一人として、スタン・シクマさんが「75年間、核戦争を避けることができてきたのは良いこと」と地元メディアKOMOの取材に答えていた。75年。長いようで、人間の歴史をたどれば、この年月はまだ短いだろうか。

あれから75年。分野を問わず日系関係者の活躍を目にする機会がますます増えた。人種の多様性も増し、コミュニティーも変化を遂げた。新世代の時代を享受するとともに、重い経験を忘れず過ちを繰り返さないように。変わらぬ思いを紡いでいかなかなればならない。

         (佐々木 志峰)

佐々木志峰
オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。