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さまざまな「米国」

ノースウエストに長く住み、気が付けばこの土地の文化、特色が自分の中の「米国」となっている。自分の中で多少ながら多様性を身に着け、「世界」を知ったつもりでいたが、シアトル生活が長くなり、井の中の蛙となり始めた感覚を持ち始めた。

以前、米国各地の天候の違いに触れたことがあったが、同様に他所に行くたびに町々の色の違いに強烈な印象を覚える。建物の色、植物の色。空気の色も含めてかもしれない。

ここ数カ月は中西部に行く機会が増えた。トランプ大統領を2016年の選挙で支えた「ラストベルト」と呼ばれる鉄鋼業が盛んだった地域。またそこから遠くはない、延々ととうもろこし畑が広がる農業地帯。少し南へ行けば特有の蒸し暑さ、緑色の力もノースウエストとは一味違う。街の様子も景気が良いと言えない雰囲気がある。

何も気にせず食料品店に入ると、筆者に向けられた特異な視線があった。後々考えてみれば、たまたまかもしれないが、アジア系の人間は筆者一人だったことに気が付いた。ある飛行機に乗れば、乗客は筆者とインド系と思われる数人を除き、残りは白人だったこともあった。そういった経験をした後は、行く先々の街先での店の対応、レストランの席位置、またはホテルの部屋の割り当てなども気にしてしまう。

それもまた米国が持つ顔の1つ。それぞれの地域に特徴があり、違いを見せながらも米国という1つの国として存在することに驚かされる。百聞は一見に如かずとは言うが、各地域を回ってみると、国を真っ二つに分けた大統領選と現在に至るまでの状況にうなずけるような雰囲気も感じ取れる。

それぞれが米国。その中でも筆者にとって、ノースウエストは精神的に合う地域の1つのようだ。シアトルに戻る飛行機からカスケードの山々が見えたときの安堵感。日本からの戻った際もノースウエストの風景、家の並びや緑を見て一安心を覚えた。何とも言えないが、この地に居を構えている人々も共感できるものがあるのではないかと思う。

(佐々木 志峰)

佐々木志峰
オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。