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桜の郷愁〜一石

出張先から戻る上空より見下ろす、シアトルの色、広々とした緑、そして鉛色の空でさえ、目にすると心が落ち着く。日本に着いた時とも違うもの。毎回のことだが、「我が家」に戻ってきた感覚といえるだろう。

桜の季節。ボーイングフィールド脇を走るエアポートウェイ。あるいはスワード・パークからレイク・ワシントンの湖畔にかけて、上空からピンク色の並木道が目に入るようになる。出張の疲れを癒してくれるだろう。

似たような感覚を、ハワイで抱いたことがある。

日系人口が多い同地。仕事先にいたボランティアと話してみると、母親が沖縄出身の日系関係者だった。沖縄のコミュニティーは大きい。正確な数字は分からないが、会話の中では、ハワイで最も人口の多いオアフ島で6~8%が沖縄ゆかりになるのではとも。

日系の話に触れて、ふと頭に浮かんだのが桜だった。調べてみると、ハワイにも桜はある。ホノルルから北西に向かったワヒアワという山間の町が良く知られているようだ。パイナップル農園の開拓で日系移民とも歴史が深い。

桜は沖縄寒緋桜で、開花は1月末からと時期が早い。すでにシーズンを終えていたが、時間の合間に向かってみた。

訪れたのは日曜日の昼食時。車は走っているが、人の往来は少ない。米国各地で展開されるファストフードのチェーン店が町の中心あたりに点在し、駐車の台数も多い。のどかな町だが、社会の流れはほかの場所と変わらないのだろうか。

通り沿いに教会が多く建ち並ぶ。これらを中心にコミュニティーがつくり上げられてきたのだろう。日系の教会もある。やがて桜の並木らしきものも目に入った。地元テレビの記事によると、500本の桜があるというから相当だ。少し北に行ったハレマノ・プランテーションなどでも桜の植樹が行われた。

点在する桜の木々を眺めながら通りを走り切り、再び町の中心へ下ると、遠くにハワイの自然が大きく広がって見えた。100年前も変わらず、先人たちが見てきた景色に近いだろうか。郷愁のひと時。これが昔ながらのコミュニティー、ハワイなのだろう。

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。