シアトル市長のエド・マレー氏は6月12日、市議会議員のシャマ・サワント(Kshama Sawant)氏及びリサ・ハーボルド(Lisa Herbold)氏と共に、シアトル市における富裕層対象の所得税課税を含む新税制案の詳細を発表した。同案の主な内容は、世帯当たりの年間所得が就業者1名の家庭では25万ドル以上、就業者2名の家庭では50万ドル以上の世帯について、2パーセントの所得税を課税するというもの。シアトル市長室からの発表によれば、「この所得税課税が制定されれば約1億2500万ドルの税収入増が見込まれる」という。トランプ大統領就任で連邦政府からの公共政策予算が削られるなかで、富裕層に所得税を課税することで、他の税率を上げることなくシアトル市内の教育・公共交通機関・環境保全などの市政運営に必要な予算を確保する狙いだ。
ワシントン州では、個人にも企業にも所得税が課税されない。同様の州は全米内でもネバダ州、オハイオ州、テキサス州の4州に限られている。一方で消費税は他州と比較しても高い税率が課せられており、所得税が高く消費税がない隣接するオレゴン州とは対照的だ。一般的に、高所得者ほど納税額が高くなる所得税に対して、収入に関係なく課税される消費税は低所得者への負担が大きい税制とされる。ワシントン州の税制は、グローバル企業や富裕層を呼び込み地域経済を活性化させているという評価もある一方で、経済的弱者に厳しい税制として批判もあびている。
州や連邦政府の税制を分析する非営利団体のThe Institute on Taxation and Economic Policy (ITEP)によれば、ワシントン州の税制は全米で最も「所得が低いほど高い税率が課せられる仕組み」になっているという。ITEPによれば、ワシントン州内の世帯のうち20パーセントを占める貧困層が彼らの年間収入の16.8パーセントを納税しているのに対し、州内世帯の1パーセントを占める富裕層が彼らの年間収入のわずか2.4パーセントのみを納税しているという。
マレー市長は、今年4月に富裕層を対象にした所得税課税案を提出し、シアトル市内で議論を起こしてきた。今回の詳細案の提出をもとに市議会では6月14日から公聴会を開始し、7月中旬には、本提案の決議がなされる予定だ。
(文 = 室橋 美佐)