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日本町の新しい高層複合商業施設、2年後に着工予定

インターナショナル・ディストリクト駅の対面、現在は駐車場になっているS. Jackson St.と5th Ave. S.の交差点付近に27階建ての複合ビル、富士松ビレッジが建設されることが決まった。宇和島屋元CEOで本誌発行人でもあるトミオ・モリグチが、台湾の土地開発会社、ダ・リ・ディベロップメントと提携し、所有地を共同開発する。今後はシアトル市による建築デザイン審査へと進み、2年後の施工開始を目指す。

富士松ビレッジという施設名は、モリグチの父親で1928年に宇和島屋を創業した森口富士松氏に由来する。モリグチは日本町の戦前から戦後にかけての移り変わりを子どもの頃から見てきた。「かつて多くのビジネスでにぎわっていたこの地域に活気を取り戻したい」と、開発への思いを話す。同ビルが完成すると、周辺では最も高い建物になる。1、2階には3,700平方メートルほどの店舗スペースが入り、3階から12階は200室のホテル、13階から27階は160室のコンドミニアムとなる予定だ。

近くには宇和島屋が2016年に再開発して賃貸運営をしている6階建てビルのパブリックスもある。その地上階には、小籠包などの点心が楽しめるドウ・ゾーン・ダンプリング・ハウス、テレビ番組「料理の鉄人」への出演で有名な森本正治シェフが経営するモモサンなどがテナントとして入っており、これらのテナント誘致にモリグチ自身も関わってきた。富士松ビレッジも同様に、日系やアジア系店舗の出店が期待される。

富士松ビレッジ建設予定地の対面にある土地はすでにモリグチからダ・リ・ディベロップメントに売却され、17階建てのKODAコンドミニアムの建設が始まっている。この土地は、宇和島屋が終戦直後にシアトルで最初の店舗を構えた場所だ。同ビル建設に当たり、賃貸居住者が多いインターナショナル・ディストリクトの地価上昇で現住民が押し出される懸念から、建設反対の動きがあり、今年2月の施工式には反対グループが集まるなどした。インターナショナル・ディストリクトは歴史的にアジア系を中心とするマイノリティー移民が集まる商業地区だが、そうした側面から70年代頃から低所得層向けの賃貸住宅が多く建てられてきた。商業地区として活性化させたいグループと、低所得賃貸住民の権利を主張するグループとの意見が対立している構図だ。富士松ビレッジのシアトル市による建築デザイン審査でも、同様の論争が起こる可能性がある。

なお、宇和島屋が所有しているのはシアトル店舗とパブリックスで、宇和島屋シアトル店上層のアパートである宇和島屋ビレッジは、2000年の開発時に開発会社へ売却している。また、宇和島屋シアトル店舗は11月から改装工事が始まり、2020年秋に完成予定。モリグチが所有していたKODAコンドミニアム建設地は売却済みで、今回、プロジェクトが公にされた富士松ビレッジは引き続きモリグチが所有する。   

(室橋美佐)

北米報知社ゼネラル・マネジャー兼北米報知編集長。上智大学経済学部卒業後、ハイテク関連企業の国際マーケティング職を経て2005年からシアトル在住。2016年にワシントン大学都市計画修士を取得し、2017年から現職。シアトルの都市問題や日系・アジア系アメリカ人コミュニティーの話題を中心に執筆。