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シアトルの外に出る

   通常であれば青空、日の長い心地よい夏の始まりを楽しめる時期。不在中のシアトルから送られてきた写真は大雨。そして鉛色の「らしからぬ」当地の姿だった。

 6月9日としては歴史的な大雨を記録したシアトル。そして米国各地でも異常な天気に見舞われている。

 中西部のある都市。就寝時間でベッドに入ると、外が騒がしさを増した。6階建ての建物で揺れを感じた。窓に叩き付けられる激しい雷雨と暴風。トルネード警報が出された。米海洋大気局(NOAA)の情報によると、滞在地で4つのトルネードが発生したという。

 翌朝、宿泊先のそばに立つ大木の枝が何本もぽきりと折られ、道路に散乱していた。ノースウエストを襲う冬の嵐とは一味違う。改めて米国土の広さを実感した。

 シアトルはアラスカを除けば、米本土の北西端。日本から距離が近く、アジアの玄関口との言葉がピタリとくる。しかし反対を向けば、東の米国主要都市はどこに向かうにも遠い。大リーグのマリナーズであれば、シアトルからの遠征はいつでも過酷だ。シーズン日程を重ねるにつれて移動の疲労、ストレスもたまるだろう。

 たまたま仕事の関係でシアトルから少しずつ場所を変え、東海岸にたどり着いた。当地出身の日系アーティストでもあるロジャー・シモムラ(下村)さんから聞いた話を思い出す。カンザス大学の教授も務め、カンザス州を拠点としていたことについて、「米国のちょうど真ん中にあり、東海岸、西海岸とどちらにも同じ距離で行ける」。飛行機の中で、その言葉がふと頭に響いた。

 街、空港の様子。人口層。西、中、東と移れば雰囲気はまったく異なる。一方でニュースはどこでも同じ。ガソリンの値段を中心としたインフレ。生活や身の回りの安全に直結するこの問題に加え、最近の痛ましい事件を受けての銃規制。今年の中間選挙が近づくにつれて、さらに議論が活発化するだろう。

 行く先々で醸し出す空気、そして根付く文化や歴史。心地よいシアトルを「当たり前」とせず、学びを忘れずにしたい。

                    (佐々木 志峰)

佐々木志峰
オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。