ポートランド市内の西に広がる森林公園は、市街地から程よい距離で静観な自然区間が広がる。ポートランド日本庭園は、ノースウエストの自然のなかに5つの庭園要素を備える。立地、景観などのバランスに優れ、年間で35 万人の訪問者があるなど同市内名所の1つとなっている。今新たな事業として文化施設「Cultural Crossing」の建設を進め、日本文化の発信地として存在感を高めている。
ポートランド日本庭園はポートランド、札幌姉妹都市提携を機に1963年に建設が始まった。東京農業大学の戸野琢磨教授が設計。5・5 エーカーという小さな、スペースながら勾配に富む景観を利用し、「平庭」、「石庭」、「茶庭」、「池泉回遊庭」、「自然庭」の5 つの日本庭園要素を取り込んだ。
同庭園の内山貞文. 日本庭園文化・技術 主監は、「ノースウエストの自然の中に日本庭園がある。周りの木は切らずにそのままにしてあります」と語る。市街中心部からも近く、自然景観に恵まれた様々な要素が人気を呼んでいるという。
庭園が現在の形へ大きく舵を取ったのは2 0 0 5 年。スティーブ・ブルームCEOは着任後、庭園の持続的な存続を図るため、日本文化の発信、また地元社会との連携といった活動に注力。入場者数は過去10 年で約3 倍に伸びる成果を見せた。
従業員数は季節ごとに変わるが、常時50 人以上を抱え、05 年時の15 人から大幅に増員された。内山主監も08 年に9代目主監として着任。庭園景観の責任を担う。
「この庭園にはもともと市民に日本文化を教え、伝える上で大きな魅力がありました」とブルームC EOは語る。現在は会員費、入場料で経営が可能という。
また一連の地元社会、日本などへのアウトリーチ活動は、現在進める施設拡張計画の大きな一助となっている。
予算3300万㌦からなる一大事業の文化施設「Cultural Crossing」は、地元のみならず、日本や世界各地から大きな支援が集まっているという。寄付は3月段階で約2400万㌦を集計した。
施設設計は、先日ワシントン大学で講演した建築家の隈研吾さんが担当。当地窪田庭園で2014 年夏に石垣作りを披露した、穴太積みの粟田純徳さんも20 フィートからなる石垣作りで参加している。内山主監によると、日本文化の探求が大きなテーマにあるという。新施設では、日本文化の「形」や「姿」ではなく、「根底」の部分を学ぶプログラムに力を入れる。
日本庭園は明治時代、日本が海外の博覧会などで日本を紹介する上で利用された。その後、国際関係が悪化するなかでも日本庭園は存続、1960年代以降の日米の姉妹都市提携ブームのなかで、日本庭園は友好親善の鍵となり、各地で建設が進められた。
第二次世界大戦中の日系人収容所となったアイダホ州ミネドカの地でも、収容者が日本庭園を建設している。
内山主監は、あらゆる時代で人々が「日本庭園はただ美しいというだけでなく、人々が欲する強い理由がそこに潜んでいたはず」と指摘する。「様々な人が共有できる普遍的な何かを感じ取れるのではないかと思っています」
施設完成は来年春を予定。庭園への入場者数は年間50 万人を見込んでいる。
ブルームCEOによると、1960年代から80 年代にかけて、姉妹都市を記念して建てられた日本庭園は約300になるという。一方で、多くが将来的な財政、管理計画に問題を抱えている。また庭園師の育成も大きな課題で、新施設を通じ、北米における日本庭園研修所としても計画している。
ブルームCEOは、「今ではこの庭園は世界的にも最も素晴らしく、伝統的な日本庭園の1つとして知られるようになりました。次は世界各地が誇る名庭園と肩を並べたい」と語る。
ポートランド日本庭園に関してはhttp://japanesegarden.com まで。
(佐々木 志峰)