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若い世代の日系人 活動の源を追う

第五回 ガブリエラ・ゲイナーさん(ダンサー、振付師)

シアトル地域で活躍する日系人。ガブリエラ・ゲイナーさんは、シアトルオペラで広報を担当する傍ら、自身でもダンスカンパニーを立ち上げ、振付師、ダンサーとして活躍している。五世である彼女の日系への意識、また自身の活動との結びつきについて追ってみた。

「私の高祖父は、1906年にサンフランシスコで地震が発生した後に米国にやってきて、大工として街を再建する手助けをしました。その後第二次世界大戦が起こり、曽祖父母はハートマウンテンにある収容所に送られ、そこで生まれたのが祖父でした」

5世世代ながら、家族の歴史について詳しいゲイナーさん。親戚はカリフォルニアに多く、両親がシアトルに移った後も日系人の親戚との結びつきが強かった。フィリピン系、アイルランド系の背景を持つが、自身を「日系人」だと認識する要因の一つになっていると語る。

「自分が日系人である、という意識はずっと持っています。日本語の単語が飛び交う家の中で育ったからでしょうか。母は若くして私を産んだため、日系三世である祖父にたくさん面倒を見てもらいました」

帰米二世(米国生まれだが、教育のために日本で育った二世)の母を持つ祖父は日本文化に詳しく、その影響を強く受けた。その曾祖母からは「カズコ」というミドルネームをもらった。

祖父からは多くを学んだという。日本文化、第二次世界大戦の日系人収容の歴史のみならず、メキシコ移民の農業労働者運動を手助けした経験を交え、人権問題や社会正義の大切さを聞かされた。現在、日系市民協会(JACL)シアトル支部の活動に関わるのは、祖父の教えがあるという。

四世、五世世代では、社会正義に関心を持ち、それぞれに活動に取り組んでいるが、ゲイナーさんは踊りを通じての表現を実践。ダンスカンパニー「ReleyDance Collective」を立ち上げ、地元ダンサーや振付師と活動を続けている。

2014年には第二次世界大戦中の日系人強制収容に関する作品を製作、バレエと太鼓の演奏と共に、JACLシアトル支部の晩餐会やウイングルーク博物館、シアトル桜祭・日本文化祭、アジア太平洋系ヘリテージ月間の文化祭で舞台に立った。「このように自身の生い立ちと、ダンスを結びつけることができることはとても良い機会でした」とゲイナーさんは振り返る。

彼女がダンスカンパニーで扱うテーマは、日系人の抱える問題だけではなく、多人種の問題にも目を向けている。現在振り付けを行っているのは、アジア系ハリウッドスターに対するステレオタイプについてだ。

「振付師として、ステレオタイプがアジア系の人々に与える影響や、私たちがどのように変わったかを伝えたい。私自身がアジア系女性として、経験し、日々考えさせられ、経験したからこそ、伝え方を知っている、だからその物語を伝えていきたいと思っています」

創作活動はマイノリティの人々が抱える問題を話題に取り上げるのに適した方法の一つという。芸術は人々と意思疎通を図るだけではなく、影響を与えることができるいう考えからだ。

今シリーズで紹介したポエトリーリーディングを行う日系のトロイ・オオサキさんら、こうした芸術活動で社会問題を訴える若者も多い。「人々が社会問題に目を向けるきっかけを作っている彼は素晴らしいと思います」とゲイナーさんは話す。「私たち日系人の多くはロールモデルを持っていないことが多いので、何か活動を行っているロールモデルを子供たちが持つことが重要ではないかと考えています。そうして次の世代を盛り上げていくことができればと思います」

世代を重ねている日系社会では、やがて四世、五世といった世代数を呼ぶこともなくなるかもしれない。比較的他民族との結婚率が高い日系人だけになおさらだろう。「子は親の背中を見て育つ」という言葉があるが、20年、30年後の当地の日系社会の行方は、彼女のように若い世代の背中にかかっている。

(岩崎 史香)

N.A.P. Staff
北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。