Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ サファイアの秘密

サファイアの秘密

5月3日、米国の自治領プエルトリコが、破錠手続きに踏み切ったとのニュースが飛び込んだ。2015年より債務不履行の申請をしていたが、債権者のヘッジファンド等と協議が決裂し、遂に破産になった。2013年のデトロイト市のケースの4倍の負債という事で、本土への影響も懸念される。

プエルトリコ同様、島々が集合しているマダガスカル島。同じ島国とは言え、こちらは少々景気の良い話題で俄かに賑わっている。アフリカの南東部から沖に約400キロ離れているこの島は、もともと様々な種類の宝石が採れる。それに加え、昨年秋よりは、サファイア・ラッシュに沸いているようだ。

2000年以降、コンスタントにルビーやサファイアが発見されているため、今回の新たな発見も想定内の範囲だった。しかし、比較的簡単な採掘方法で高品質の原石が採れるとあっては、4万5千人程の採掘者が集まるサファイア・ラッシュの賑わいも納得できる。熱帯雨林に位置する川の淵2.5キロに、採掘者が集まっているそうだ。

鉱山を掘るのとは違い、土砂として川に流れ出ている原石を見つけるのは、簡単な道具があれば素人でも十分可能である。実際、今までもその様に素人が大発見してから大々的な発掘になったケースは数えきれない。今回の発掘が、何をきっかけにしたものだったかは定かではないが、すでに75カラットと100カラットを超える、色も透明度も申し分ない原石が見つかっているそう。それに50カラットを超えるオレンジ・ピンクのサファイアも。

サファイアといえば青。多分一番有名なサファイアは故ダイアナ妃の婚約指輪で、現在はウィリアム王子の妻であるキャサリン妃がもつ、あの指輪だろう。サファイアというと青を思い浮かべる人が多いだろう。ただの「サファイア」となっている場合は青を指す。しかし、サファイアは透明から真っ黒まで、ありとあらゆる色があるのだ。他の色の場合は、「イェローサファイア」や「ピンクサファイア」などとサファイアの前に色の名称を付ける。

ここで、宝石に関する最も知られていない事実の1つ、ルビーとサファイアの関係について説明したい。ほとんどの人が、この2つを全く別の種類の宝石だと思っているだろう。しかし、実は双方とも学術的にいうとコランダムと言って、同種の宝石である。違いは色だけで(それも十分大きな違いだが)、青がサファイアで赤がルビーというだけの話なのだ。

なぜルビーだけは、レッドサファイアではなくルビーなのか。ラテン語の赤を表すルバーが語源とのことだが、科学的な分析が可能な近年まで、ルビーとサファイアが同じものだという認識はなかったはず。実際、伝説として伝わるルビーのいくつかは、スピネルという別の鉱物だというのが近年の研究で分かってきた。スピネルもルビーも同じような環境・土壌で採掘されるため、昔の人ははっきり区別つけられなかったのだろうと。
サファイアの赤いものがルビーというのが分かり、ここでまた問題が生じた。ピンクサファイアとルビーの境目だ。なぜこの境目が重要かというと、ルビーとなると一気に値が吊り上がる。濃いピンクをピンクサファイアとするより、ルビーとした方が価値が上がるのだ。20世紀に入りGIAを始めとする鑑定機関が色のルールを決めたことで、客観的な色の違いがルール化された。しかし未だにトレードや売買の際のグレーゾーンと言ったところだ。濃いピンクはしょせんピンクで、ルビー程の価値が出ないことをお忘れなく。

それに近い問題で、先に述べた50カラット越えのオレンジ・ピンクのサファイア。オレンジとピンクの強さがほぼ同じぐらいのものをパドパラージャと呼び、これも品質によってはかなりの価値がでる。ここで重要なのは、オレンジとピンクが同じ強さで濃い色であるということ。オレンジが遥かに強ければオレンジサファイアで、その逆も然り。

「ルビー」や「パドパラージャ」と言われて高値を吹っ掛けられないように、心配であれば必ず然るべき機関の鑑別書を発行して貰おう。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。